響く太鼓、踊る笛の音、人の声、ぐだぐだに混ざりあった菓子や酒や煙草の匂い。
いくつもの出店の明かりをのせて柔らかく光る銀髪。何度か振り返ってはこちらの存在を確かめる赤い目。
大人とはぐれた不安、それを上回る好奇心。持て余した右手。
放り出した指に冷たい温度を感じて意識を取り戻す。ゆっくりと瞼を開く。体中の水分が泥のように濁っていて、手足は鉛のように重い。眠っている間に無意識に腕を伸ばしたのか、ひっくり返った酒が盛大な水溜まりをつくっていた。
部屋中に閉じ込められた酒の臭いが鈍くのしかかってくる。この有様だとしばらく染み付いて離れないだろう。それなら部屋ごと変えさせればいい。
汗で張り付いた前髪を払おうとして、頬の水分に気付く。どちらだろうかと考えて手の甲にすり付けて舐める。舌が馬鹿になっていて判断がつかない。
どちらでも変わらないのかもしれないし、そうではないのかもしれない。どうでもいいことだ。以前はそうではなかったかもしれないが、どうでもいい事に成り下がった。すべては暇つぶしだ。
記憶の中では伸ばさなかった、しかし先程は無意識に伸ばした指の先を思った。あの時どんな気持ちであの目を見ていたのか、もう今は思い出せない。それなのにふとした時に身体が思い出す。とどめておけたらと何かが一瞬胸を掠めた気がしたが、きっとすぐに忘れるだろう。目を閉じる。
窓の外から微かに太鼓の音がしている。
散らばった髪が酒に浸る。胸が騒ぐ。