最近副長の元気がない。
会議中もため息ばかりで上の空だし、あんなにも不健康に愛していた煙草を、火もつけずくわえたままでいる。おかげで俺の、常時頭の上に出来ていた人口の小山は、ここしばらく元の平野へ戻っている。素晴らしく平和だ。
(でも)
弱っているあの人をいじくりたおして噴火させる、中身も(ここだけの話見た目もたまに間違えられる)頭脳も中二なあの人が姿を見せないのは何故だろう。
(しかし平和だ)
いい事なんだけれど。いい事なんだけれど。
「やーまーざーきィー。ね、こういうのどこに売ってんの?」
「洋菓子ですか? 珍しいですね。 あぁコレ最近流行ってるヤツですね。朝から並ばんと買えませんよ」
「え、そうなの。俺しばらく護衛だから買いにいけねぇんだよなァ」
「沖田さんこういうゴテゴテしたの食べるんですね」
「ん? たまにはな」
(あ、笑った?)
普段、表情筋を全くと言っていい程使わない、容姿だけはべらぼうに素晴らしいこの人が笑うとそれはもう。
(すさまじい威力…)
好い人でも出来たんだろうか。
今みたいな顔を向けて、朝から並んで買った高級洋菓子を渡したくなるような人が。
ちりりと胸が焼けた気がして、そこでやっと副長の、不機嫌の理由に辿り着く。共有する。
もちろん俺はやましい方じゃないけど。
「…これ、似たのなら自分でも作れますよ」
「え? んーでも…」
「それにあげるなら、手作りの方が喜ばれるかも?」
キョトンとした後、そういうもんかと呟いた沖田さんは、じゃあ!と俺の手を引いて二人仲良く買い出しに出かける事に。
「多めに作って味見しましょうよ」
と、浮き足立ってる沖田さんに進言。するふりをして後で副長に差し入れようと画策する。
きっとどんなに得体の知れない物が出来上がったって不機嫌ぶって残さず食べるに違いない。