うっすらと唇が赤くなっていたからぎょっとした。
紅でもひいてんのかと思って。ドキッじゃない。断じて。

「な、どしたの。ソレ」
「?…はい?」

俺が煙草を持っているのとは反対の手で口元を指すと、同じように総悟の指が、赤くなった自分の唇に止まる。ぼけっと口をあけて俺を見たまま。いや、だから俺じゃなくて。

しばらく自分の唇を撫でていたのに、急にカッと目を見開いた。かと思えば背中を丸めて顔を隠す。何を企んでいるのかと勘ぐって隣を覗き込めば、総悟の耳の先辺りがじんわりと赤に侵食されていた。その理由に思い当たって、こっちは一気に青ざめる。
一体いつからだ。つーか誰だ。

動揺してストライキを始めそうな脳みそを叱りつけ、最近の総悟の様子を思い出す。こいつにちょっかいかけようなんて馬鹿は、うちにはいない。(そんな事をする度胸のある奴はいない。二重の意味で)
ならば、と考えを巡らせているとふと、銀色のけだるげな男が頭をよぎる。そういや最近やたらと一緒にいるし、おとついなんてコソコソ電話なんぞしてやがった。

(よし、殺そう)



煙草を投げ捨ててその場を去ろうとすると、とうとう顔全体を赤く染め上げた総悟と目が合う。

「からかわねェんですね」

そういって恥ずかしそうに微笑むものだから。
立ち上がろうとして少し浮いていた腰を元の位置に戻し、とりあえず、新しい煙草に火をつけた。