道場の真ん中にこたつを運んで座布団を並べる。ストーブも用意した。
「うわっさむい!」
山崎はコートを着たまま鍋をどん、と置いてコンロの調子を見た。近藤さんが野菜を持ってくる。次にコートとマフラーを巻いたままの居候が鍋を運んできた。
「きょうは人数多いんで鍋二つにしたんですけど、足りますかね?」
「沖田くんが食べ過ぎなければ大丈夫。」
コンロに火をつけながら居候が言う。
「何人来るんでい?」
「六です。」
「おいこれどうすんだ」
手に魚のパックを持ったままのセンセイが顔を出す。前髪がじゃまそうだ。
「アンタさばけるでしょ」
山崎は野菜をざざっと鍋に投入しながら指示。いつからこんなに肝が据わったやつになったんだろうか。もしかしておれが知らなかっただけか?
「‥え〜‥」
「あ、あと炊飯器のスイッチ押しといて下さい。」
「おれ手伝い行ってくる」
「総悟くん!総悟はいいよ、包丁はやめて!!」
え〜。
蓋された鍋が二つ。
もういいんだろうか、さっきから腹の虫が鳴っている。
「もういいですよ、こっちはちゃんこ鍋、こっちは豆乳です。」
「それでは、いただきます。」
近藤さんの声で蓋を開ける。
「眼鏡くもった」
志村はラーメンを食べるときもおでんを食べるときも難儀そうにしている。
大人達は新しい酒を開けてそれぞれ盃を傾けている。机の上は、ひとり二つの器や具の乗った皿でぎゅうぎゅうだ。居候の持ってきた鯛のあらを噛み締めながら、まだ暖かくならない道場で息を吐いた。
「そういえば、服部さんって高校どこなんですか?」
「二つ隣の男子校。」
居候はくずきりが熱くて食べられないらしい。
「ぼんぼんだ。」
白菜をよそいながら山崎が笑う。
「なんで土方さんと知り合いなんでさあ。」
「有名だったんだよ、そこの眼帯兄ちゃんとあのひと。」
センセイは素知らぬふりで、というか餅に夢中だ。いい餅なだけあってよく伸びる。
「近藤さんも山崎も同じ高校だったんだろ?」
一緒だったよ、と近藤さんと山崎が答える。
「同じ高校で風紀委員で不良だったんですよ」
「バラガキと一つ目の獣な」
「姉上も話してたなあ。」
「じゃあセンセイと土方さんと坂田の旦那の関係は?」
「おい、山崎豆腐とって。」
おかわり、と差しだされたセンセイの器を受け取って豆腐と鯛、白菜にえのきを入れて渡す。
「喧嘩したんですかい?」
「したな」
「もうどうしようかと思いましたよ、土方さんがボロボロになってくのとか初めて見たし、坂田さんはなぜかにこにこしてるし」
「健やかヤンキーですよね」
志村が肩を揺らして笑う。
「ばかのくせして勘だけはいい」
盃に酒をついでセンセイが言う。
「おもしろい男だよなあ」
「結局高校卒業して三人で暮らしはじめるし」
「三人?」
この間聞いたはなしでは、センセイと坂田の旦那が一緒に暮らしてたという話だった。呑気にくずきりを噛んでいる山崎を睨む。
「あのひとの家のごたごたと高杉さんの跡継ぎ問題があった時期な」
親戚が死んで、土方さんがまた一人になったとき、周りが遺産で揉めたらしい。センセイは誰の子だとか違うとかで揉めた時期があった。今もまだ、それらが完全に無くなった訳じゃないのだと思う。
「そのあと土方さんがあの家買って、服部さんと住みはじめたんですよ」
なんだ、さっき睨んだの分かってたのか。
「結局丸く収まったな」
白夜叉の本当か嘘かいまでも分からない伝説やら、いつもはMAXで怒っていなかったセンセイが激怒した話などを聞きながら鍋パーティーは終わった。
いまは交代で準備をしなかった方が洗い物を片付けている。
センセイはまだ酒瓶を抱えて呑んでいる。
「まだ呑むんですかい」
「呑む」
センセイの目におれを映して赤い唇に口をひっつける。
「酒くさい」
「あ、いたいた。沖田くんおれもうバスないしここ泊まろうと思うんだけど布団部屋に敷いていい?」
「じゃあおれセンセイんとこ泊まろうかな」
「それはどうだろう」
酔っぱらいのくせしてそこは頭回るんだ、ずるいセンセイでい。