「全蔵に恋人なんかできるわけない、7年賭けてたのよ、バカじゃない?」
「とりあえず寒い」
「何がどうなってそうなんのよ? うちの先生同士がそんなことになってたらげえって感じよ」
「なんて?」
「妥協したんでしょ、だから大人ってイヤ」
車の窓からばたばたばたばたと吹き込む風は、過ぎるエンジン音も巻き込んでひどくうるさい。 猿飛という彼女は、俺のセドリックに座って、ぐいっと引き寄せた両足の裏から土を払った。泥がマットに落ちずふいて飛んだ。 つい振り返った後部座席のカゴの風船は車の振動ではねて戻る。 手のひらでなんとなくうなじを押さえ、はためく前髪の下で道路標識へ目を向けた。 ラジオからはリスナーのリクエストでマライア・キャリーのエモーションが流れていた。 こいつもバカだな年末に・・・、とぼんやりする横で、足を席に乗せてる彼女の太ももから、スカートが細かく波打ち何度も下着が見えている。 見慣れないホームセンターの看板と、冬の空がフロントガラスを風の轟音ですべってく。排気ガスの匂いが知らない場所だと新鮮なのっていつも不思議だな。
「だいたい何よ当の本人は帰ってきてすぐ墓参りって、年取った」
「・・・・」
「案内なんてどうすりゃいいのよ、何にもないんだからこんな地元」
「・・・確かに、」
「何よ」
頬杖をといた彼女の泣きぼくろが、はためく髪のあいだで短くみえ隠れした。ただの17歳と聞いてた割りには美人だ。美人だけど。
「人の実家に来てまで、助手席に女子高生乗せてる俺はバカだと思う」
人差し指をハンドルからゆるくあけて、目の前を細く見つめる。 手桶とひしゃくを持った彼が。一緒に来ますか、と言うその一言に、頷けなかった俺が。 突然、勢いよくおろされた彼女の指にスイッチが押されて窓ガラスが上がった。冷たい余韻と急な静けさで閉じ込められた空気に、つい彼女へやった横目を前に戻した。
「言っておくけど私を若い他人のバカだと思って今後二度と当たらないで。嫌味はわかるしため息にだって敏感よ。 ・・・あんたは今すんごくつまんないこと考えてる。わかるのよ」
肘をついてコトンとあちらへかたむいた彼女の髪の毛の束が、眼鏡のフレームのとこだけふくらんだ。
「今のは・・・悪い」
「この車ってどこ産?」
「日産」
「やだダジャレみたいになった」
いきなり体を前のめりに折って、くっくっく、と彼女が笑った。
「ちょっとやそっとの事故が起きても死なないのね」
「不吉なこと言うな。あと不謹慎」
「何が?」
顔だけこちらに向けじっと見つめてくる彼女の両目は無邪気で感情の読めない小猫みたいに丸い。それからまた頬杖をついた猿飛は、外を見ながら ポケットからリップクリームを出し器用に片手でふたを開けた。
「何で私が全蔵の実家に半分住みついてるか聞いた? 学校でいじめられてるからよ。あの家に帰ってあのソファーに一人きりで体育座りする瞬間がどうしようもなく必要なのよ、 じゃなきゃ泣いちゃうの。そういうの、知らずに生きてきた人でしょあなた」
「・・・・・・わかった、先にお前の用事を優先しよう。何食べたい?」
「・・・最近行ってないな、ファミレス」
「俺も」
高架下に入った一瞬だけあたりが影で暗くなり、ちょうどゴオオオとつんざくような電車の音が上を走った。明るみに出た後、しんとしずまりかえった車内で彼女が ひらいた下くちびるにリップクリームをあてたまま しばらく後ろを振り返る。「・・・何であんなタイミングでくぐれるのよあんた?」「知らないよ」
猿飛は店内をきょろきょろと見渡したあと、うつむいて膝の上でメニューをめくった。俺は煙草を指にはさんでそれを眺めてから、窓の外に視線を向けた。 ちらちらとした雪が、反転した店名の向こうで音もなく小さな冬の息をしていた。 広いテーブルにただ無言が落ちて、向こうで若い女の笑い声があがった。
「普段、2人で何食べてるの」
「魚と白ご飯とみそ汁」
「あいつ作る?」
「作るよ」
「はーん一緒に住んでるわけね」
「なあ、俺たちは元々同僚の勘違いでくっつけられたんだよ。服部先生に聞いてねえの」
「ふふ」
「何?」
服部先生、と彼女はメニューに目を落としたまま小声でくちびるを動かした。
「それで何で二年?」
「・・・・・」
「ああーわかったわ」
「何だ」
「そうよね、いい年して相手の実家なんて来ちゃったくせに、墓参りには行かず私とこうしてんだものね、お察しするわ」
「そうだねありがとう」
彼女が笑ってステーキを切って、俺は半目でかきのフライを割った。食後のコーヒーを飲んでるあいだ、彼女は両膝を抱えた両手のすそとすそ をつなげた。だるまみたいにゆれていた。 うすあかるい昼下がりの光が、立てたメニューを影にさしこんで、見知らぬ土地のこんなファミレスで店員や他の客から俺たちはどういう関係に見えてんだろうと俯瞰的に思う。 子供が走り回る騒がしさが通りすぎ、食事で満たされたゆるい色がテーブル席ににじみこんでいる。
「ねえ先生なら生徒の悩み聞いてくれる?」
「聞くだけなら」
「・・・私たまにセックスさえすれば自分がカンペキになる気がするけど怖いの」
「ならしなきゃいい」
「な、なんで?」
「しなきゃいけないもんじゃないから」
「そうかあ。・・・でもした方が楽しいでしょ?」
「そうでも」
「あんた全蔵とは、」
「それ以上聞いたら奢らない」
「お願いちょっとだけ!」
勢いあまってガンと彼女がテーブルに額を打った音があまりに悲痛だったので、灰皿の丸い溝を、消した煙草の先でなぞった。灰色の線がゆっくり曲がってく。
「・・・思うとしたら一緒に飯食ってる時。作ってる時。たまにベランダの洗濯機の音聞きながら1人でぼんやりしてると、あの人が寒そうにただいまって帰ってきた時。 セックスなんか、一番どうでもいいよ」
伝票を持って立ち上がる。自分で言っておいて、通路を歩きながら目を落とした会計の数字にふだんの日常の断片がゆらりかさなっていった。そうだな、それなのに。
車のエンジンをかけ、ブレーキを踏んだまま背もたれに後頭部をあずける。暖房が車内を伝わってだいぶ動き始めているのがわかる。 隣で膝下の靴下をなおした彼女が席におさまりこちらを見て、5秒ほどしてからまたこちらに顔を向けた。
「ねえ、あんたの用事ってなんなのよ?」
「同僚の出産祝い」
「へえ待ってその同僚ってどこにいるわけ?」
「近く。・・・先にお前を送るよ」
「いやよ、私も赤ちゃん見たい」
・・・じゃあこれ持っといて、ん、という会話でカゴが俺から彼女へ渡り、サイドブレーキを握って、一度まぶたを閉じ、下ろした。
ほら、と言われたからそっと手を伸ばした。
正直、ちょっと寄せただけだった。小さな力が、指をつかむ。湿ってる。ゆっくり握ってる。 すこし顔を上げると、床に両手をついてのぞきこんでいた猿飛も丸い目でこちらを見た。 つい上下してみる。全部の指で、たった一本の俺をはなさない。 しわしわの目はまだ人間じゃないみたい。母乳がわかる。くちびるだけががんばってる。けんめいないのち。 クリーム色の小さな服。ピンクのきりんと天使がからから回る。
見つめる俺のまばたきが、フレームになって、溶ける。
二階のベランダで目を閉じていると、煙草のけむりに風がふいたのがわかった。 手すりに置いた手首と、じっとくっつけている額のあいだで、前髪がはたみたいにふくらんで返った。
「・・・・・お祝いばっかで祝儀貧乏だ」
「全蔵遅いわね」
「・・・たぶん・・・俺の飲める酒探してる」
「何それ。じゃああっこの酒屋だ。私迎えに行ってくる」
近くで彼女の気配がひるがえるように離れて、足音がおりていく。1人になって、改めて人の家の広い静けさを聞く。 同僚の女教師が子供を産んだのはついこの間のことで、彼女が里帰りする実家は、彼の実家の街と一緒だった。 時にはそんな理由で、まあそんなというのも失礼だが、やっぱりそんな理由で2年間同僚としていい距離を保ってきた恋人の実家に来ることになる。 知りもしない昔なじみの高校生の面倒をみることになる。 けれどその腐れ縁以外家族はもういないと言われて拍子抜けした。・・・どこかで、ほっと、もした。
・・・門の音がして、体を起こした向かいのマンションの角から、夕方の太陽が何度かちかり隠れながら一気に細めた瞳を射した。 くすんだ黄色い光が、透けたカーテンから部屋のなかへと直線でつきぬける。 こぼしたジュースみたいにここら一帯ぜんぶへ広がっていく。知らない街の満ち潮だ。 テレビや低い棚が黒い輪郭でつながり、床の畳だけが明るい。そこだけ取り残されたような染まり方をしていた。
・・・「・・・乳首、痛くないですか」って
(我ながらバカなこと聞いた)
「土方先生、帰ってたんですか」
「うん」
窓ガラスの水あかの汚れが、きらきらとして、手すりに寄りかかった横目だけで振り返ったまぶたをすこし親指でこすった。
「猿飛は?」
階段をおりて、見当たらない彼女の居所を聞く。 マフラーを外している体のななめ後ろで台所をそうしてのぞいた時、ふと彼の服の匂いが、いつも俺たちがつかってる洗剤の匂いで やけに、やわらかかった。あの東京の部屋にある、いつもの、この生地の匂い。あまりに ふいに胸にしみて思わず、皺のたるみに指で触れてはさんだ。
「アイスで悩んでたんでスーパーに置いてきましたよ。あれどうかしました」
彼が濡れた両手をあげてちょっと退けた横から、・・・いえ、と手を洗う。猿飛が庭で持っていた紫が、 プリンの瓶から小窓であたまを垂れている。
「土方先生は? お祝い渡してきてくれました?」
「ええ」
「もうすぐ復帰ですよね、元気してましたか」
「小っちゃかったです」
「え? ああ赤ちゃんが」
そう笑って「こっち切って下さい」と渡してきた白ネギを押さえ、包丁をおろす。すとん、すとんと均等に切る手つきがいつの間にか慣れたもんだと自分でも思う。 服部先生、そのいのちの上で玩具のきりんと天使が回ってましたよ。かわいいんだか何だかわかりませんが。 しあわせは時にそんな形で頭上に回ってんだなと思いました。見たことありますか。そういうの。そういうものに、ベランダからやわらかい陽が、落ちるとこ。
「服部先生・・・俺思うんですけど」
「ん?」
「あ・・・うん・・・・あいつ自分だけハーゲンダッツ買ってくる気がします」
「出会って一日でよくわかりましたね」
「昔の彼女がそうでした」
「最後に付き合った6年前の」
「そう。4ヶ月でフラれたやつです。・・・・・」
まな板から手のひらで落ちてくかけらが丸い。断面からいくつか層がのぞいてる。 ふと次は横から菊菜を置かれた代わりに、「土方先生」とさっきからくわえていた煙草を抜き取られた。 ぼうとしていたせいで一瞬、上げた視界がスローモーションのような夕方色だった。 その指が縁側からの光のなかで、まるで水のようにゆれる。空中でゆるやかな線をひいて、俺のくちびるから、シンクにじゅっと浸す。 まだ半分しか吸ってないそれがぼろぼろと濡れて崩れた。 黙って首にぎゅっと両手をあて、天井をあおぐ。「そんなスネた口してもダメです」「してません」
こんないい年だから実家に来るなんてことを尻込みしておいて、たいした覚悟もないくせに、こんだけ続いてんの、アンタだけなんです、とふいに言いかけた自分にあきれただけだ。 なんでもないけどどこかからただ暮れてくこの陽のしゅんかんにまだ未来の方が余裕があったむかしはむかし。蛍光灯にまつ毛を伏せて、閉じる。 まぶたの海のなかでからから回る天使の影と、庭のソファーで胎児みたいにぎゅっと自分を抱きこんでいるような猿飛の姿がぼやけてよぎる。
「・・・あいつやけに遅せーな何やってんだ」
「構いませんよ」
「猿飛が恋人見たいって言うもんだから、わがまま言ったでしょ」
「まあ。そちらは、墓参り。どうでした」
芯を切った白菜を皿へすべらせる。
「うん」
うん、と彼は手から水を切って、花柄のキッチンタオルで拭いた。
「・・・土方先生、俺ね、昨日、夢見たんです。宇宙戦争みたいな夢です。地球が 壊れてくんですよ。地面から何もかも吹き飛ぶんですね。 ああ世界は終わっちまうんだと思って。あー墓参りくらいには行かねーとなーって思ったんですけど。そういう時に、自分にとってその・・・大事なものがね。浮かぶんです」
「ああなんとなくわかります」
「起きてね、土方先生のこと。見に行ったんですよ。ふつうに寝てました、あんた」
「・・・・・」
白菜に落としていた目を、彼の方へ上げた。キッチンの棚からコップを取っている後ろ姿の頭が上を向いていてうなじが見えた。 見つめているとそれがこちらを見て、「・・・いえ深い意味はないんですけどね」と俺の前を通りすぎた。
「あ〜お腹空いた」
「遅いぞお前」
「アイス出してみろ」と、俺は、彼が蓋を取っている向かいで彼女にスヌーピーのコップを置く。
「私がいない間に2人で悪口言ってたんじゃないでしょうね」
「言ってたよ」
淡泊に食器を並べる手を彼女が無視して、制服のコートを脱いだ。スヌーピーのコップをひょいと持って立ち上がり、代わりにでこぼことしたお洒落な水色の グラスを取ってきた彼女は、蓮がひらいたみたいに女の形をしたにおいで湯気に湿った空間に座った。
「服部先生、こいつに酒はダメですよ」
「先生ってバカよね。正論が正しくない時だってあるのよ」
「たとえば」
「お前の恋は叶わないとか、宇宙には行けないとか」
「・・・・思ったより難しいのが返ってきたな」
「土方先生、真剣に聞かなくていいです。今日は本当にありがとうございました」
「全蔵に保護者ぶられると吐きそう」
彼女が、彼がかたむけたビール瓶の口に、底に片手を添えたコップをあてた。
「高校生にもなって、登校したら机がないってどう思う? 笑っちゃうでしょ」
「あー担任には言ったのか」
「土方先生、豆腐もういいですよ」
「友達作れって真っ当なこという先生は私嫌い。でも全蔵はまあほらそうじゃないのよ」
「身内にフォローされると変な感じになるからやめろ」
彼女は豚肉を噛んでいる口元を睨んで、すぐに切り替わった表情でこちらへ何かの袋をいたずらするみたいにちょっと開けてみせた。 レース調のシールが貼られた箱をのぞく。
「へえ」
「なになに何ですか」
「ケーキよ」
「お前誕生日だっけ?」
「おめでとう」
お互い彼女を見もせずに白菜を自分の器に取った。俺はすこし、真っ当じゃないから嫌われない彼の関わり方を考えていた。
「あとほらワイン」
「よく買えたな」
と俺が箸にひっかかって何度か振り落とそうとしたマロニーを彼がついとはさむ。そのまま自然とそちらの器へ吸いこまれる。
「そして花屋で作ってもらった花束よ」
「おい待てお前何買ってきたんだ俺の金で!」
彼がようやくテーブルを叩いて振り向くと、彼女は女がよくするぴょんと片方ずつはねあがるような正座の組み方をして、無遠慮に箸を鍋につっこんだ。
「うちの母さんがね」
・・・女子高生のおしゃべりはかくも自由・・・と2人で顔を見合わせた間で、彼女が崩れた豆腐をかきあげる。
「全蔵には、私がいじめられてる分世話になってるしって、私は思ってないけど、まあ土方先生もね。 変な人じゃないのはわかるのよ。何ていうか長年の腐れ縁ってこういうことでもないときっかけもないしね。 それに土方先生がぼやくから。なるほどあんたら2人は祝われることがないのねと思ってさ、 まあだからぜんぶあんたたちのお祝いなんだけど、あれコレつみれもう出来てる?」
ビールを持っていたところに「じゃあはい」と花束を押しつけられ、体が傾き、噛んでたものを飲みこみそこねた。指に液体がこぼれた。 花びらが俺の頭からテーブルへ、一枚、二枚、と、おちた。確かに、この子はなにか、ふつうじゃない。めくれたようなそれから視線をあげると、 彼も、花をかぶったこちらにどこかぽかんとくちびるを開いたので、俺は猿飛へ目を向ける。 ファミレスで猿飛に答えた中身と。彼の服の皺と。夢の話がゆるい渦になって鍋の温度のなかをすぎた。 彼女の手前で、くもるような湯気がただ登っていた。視界に淡いピンクがはらとちる。
「・・・あの、俺たち結婚はできないけど。いいのか」
ゲッホ!という声が向かいから聞こえた。
手で口を押さえている顔が俺を見る。湯気が部屋にとけていく。つめこんだ野菜が泡で押し上げられながら煮立つ出汁に色がつく。 ぷつぷつと音を立てる土鍋が真ん中であつい。「す、すいません、俺、今ちょっと」とうつむいてしまった彼が、やけに あったかい空気にふちどられていた。「なあにもう」と肉を口に入れてる彼女が、めんどうそうにでもまるで自然な手で彼の背中をさすった。 不思議とそれ以上の言葉がなくても、俺たちの距離にあるなにかが流れるのがわかった。 大事なものは時々こういうとこに入ってる。若い彼女が俺とアンタの間で鍋にぽいと放りこんだいのち。人生の、いのち。俺の腕のなかで花が咲いている。 きりんと天使がからからからから古いフィルムみたいに回って、消える。
「・・・人に片付け押し付けといて何やってんのかと思えばあのイケメン」
「お前は絶対土方先生に迷惑かけたろ」
猿飛は柱の影からのぞかせた眼鏡を耳にかけなおした。こういう盗み見はよくないと彼女の肩に手をかけようとして、足が止まる。 うちの仏壇の前で正座している土方の黒髪が、ゆっくり落ちた。畳に手をついて、長い間下げられた頭が再びあがる。 すこしだけゆるい膜が張った真っすぐな目が、夜のなかできれいに浮かんだ。 それは今挨拶をしているのが自分であることが申し訳なさそうでけれどちゃんと伸びた背筋が月明かりに静かだった。
「・・・あの人、本当は今日泣きたかったんだな」
「え?」
「・・・よかった、鍋で。ありがとう」
猿飛の頭を廊下の方へ押し、「何気味悪い全蔵」「俺たちは大人だから」、・・・大人だから、たまに簡単なことが言葉で言えない。
一緒にいたいとか。
一緒にいて。いいのかとか。
「食後のアイスみんなで食べるでしょ?」
「そうだな、そういうのが大事だ。大丈夫、お前はかしこい」
笑って指のすきまにはさまった猿飛の髪がするりと解けた。